いちょう団地祭り その7
これを見てとうもろこしを焼いたものだとはすぐ分かるだろう。日本の祭りの定番であ
る。しかしこれを売っている場所は日本であるがちょっと様相が違う。そこには日本文
化を母国の文化として育った者ではない人々、または両文化の保持者や親族の主として
いる文化とは異なる文化を持つ者など多様な人々が生活する場所である。そのようなと
ころでは違うことが普通であり、ある共通項を「普通」と呼んで共有することが「違
う」ことなのかもしれない。「違う」という言葉さえ、私が使用する「違う」ではない
かもしれない。そう思うととても面白いではないか。私の常識は非常識なのである。い
や、異常といってもいいかもしれない。
これはベトナム人が売っていた焼きとうもろこしである。路上で炭を使用しモクモクと
煙と香ばしい食欲をそそるにおいを発しながら焼いている姿は正に東南アジアである。
「煙が煙いのでやめてくれ」なんて誰も言わない。そこに炭で何かを焼いている人がい
れば、冷蔵庫から食材を持ってきて一緒に焼いてくれって言うのがベトナム人である。
今の日本にその文化はほとんど残っていないと想像する。もしそのような文化の中で私
が「煙たい」と苦情を言ったとしよう。私は非常識な人間と認定されるだろう。
よく見ると日本で見かけるとうもろこしと少し違う。黄色が薄く全体がずんぐりしてい
るのが分かる。これはおそらくベトナムからもって来たのではないか。ベトナム人もと
うもろこしは大好きだ。焼いたり、茹でたりしたのを露天で買い、かぶりつく。私から
するとベトナムで食べた味は若干物足りないが粘りがある食感だった。この種がベトナ
ム固有かは不明だがどうやら日本で食べる種類とベトナムのこのとうもろこしは種類が
違う。この日食べたとうもろこしは正にベトナムで食べたとうもろこしだった。焼いた
とうもろこしにネギを油で炒め調味したネギ油が味付けに使われていた。久しぶりに食
べたベトナムの味は私の脳の奥深くにしまわれていた記憶を引っ張り出した。